📌 この記事のポイント

65歳以降も働くことで老後資金の取り崩しペースを抑えられます。しかし「在職老齢年金」の仕組みで収入が増えると年金が減額される場合も。継続雇用・再就職・フリーランス・起業それぞれの手取り額と社会保険負担を理解した上で働き方を選ぶことが重要です(金額は概算です)。

65歳以降に働く「経済的価値」

老後の資産計画において、「65歳以降も少しでも働く」ことは有力な選択肢です。仮に月10万円の収入が70歳まで5年間続いた場合、累計600万円の収入になり、その分だけ資産の取り崩しを減らすことができます。

また、働くことで年金の受取開始を繰下げる時間的余裕が生まれ、繰下げによる増額効果と組み合わせることで老後の総受取額を増やせる場合があります。

📌 働きながら繰下げる場合の考え方

65〜70歳まで月15万円を稼ぎながら、年金を70歳まで繰下げた場合:
①働いた5年間の収入:900万円(月15万円×60か月)
②70歳まで繰下げると、年金は+42%(0.7%×60か月)。例えば老齢基礎年金が満額(月70,608円)なら、月約2.97万円の増額(終身)
③①と②は性質が異なるため合算せず、それぞれ別に把握します。
※在職老齢年金で停止された厚生年金の部分は、繰下げの増額の対象になりません。繰下げは最大75歳まで(増額率は最大+84%)です。

在職老齢年金の仕組みと影響

65歳以降も会社員・公務員として働き、厚生年金に加入し続ける場合、一定以上の収入があると年金が減額・停止される「在職老齢年金」の制度が適用されます。

65歳以降の在職老齢年金の計算方法

65歳以上の基準額(支給停止調整額)は、賃金水準にあわせて毎年度改定されます。2025年度は51万円、2026年度は65万円です(2025年の年金制度改正で62万円への引き上げが決まり、2026年度は賃金水準にあわせて65万円になりました。最新の額は日本年金機構でご確認ください)。

基本月額+総報酬月額相当額 年金の支給停止
65万円以下 停止なし(全額支給)
65万円超 超過額の1/2が停止
💡 具体例

老齢厚生年金(月)15万円+給与(月)55万円=70万円。65万円を5万円超えているため、5万円×1/2=2.5万円が停止。受け取れる年金は12.5万円になります。給与月額が50万円以下なら停止額はゼロです(賞与がある場合は、賞与の1/12が加わった「総報酬月額相当額」で判定します)。

⚠️ 基礎年金は停止されない

在職老齢年金で減額・停止されるのは老齢厚生年金のみです。老齢基礎年金(2026年度の満額は年約84.7万円)は働き続けても減額されません。また、パートや短時間労働で厚生年金に未加入の場合は在職老齢年金の対象外です。なお、2025年の改正で、短時間労働者の厚生年金の加入要件のうち「月額賃金8.8万円以上」が2026年10月に撤廃され、週20時間以上などの条件を満たす場合は、加入の対象になります。

65歳以降の働き方と手取り比較

働き方によって、収入・社会保険負担・税負担が大きく異なります。主な4つの働き方を比較します。

継続雇用(同じ会社)
再雇用・継続雇用制度
月20〜30万円
正社員時代比 60〜70%程度が多い
✅ 社会保険継続・雇用安定
✅ 通勤・業務に慣れている
⚠️ 役職なし・給与ダウンが一般的
⚠️ 厚生年金加入で在職老齢年金の対象になる可能性あり
再就職(別会社・転職)
新たな会社・業界への就職
月15〜25万円
職種・経験により差が大きい
✅ スキル・経験を活かした転職
✅ 気持ちのリフレッシュ
⚠️ 採用のハードルが上がる
⚠️ 新環境への適応コスト
フリーランス・副業
個人事業主として働く
月10〜40万円
スキルと営業力次第で幅が大きい
✅ 時間・場所の自由度が高い
✅ 厚生年金加入なし→在職老齢年金の対象外
⚠️ 収入不安定・自己管理が必要
⚠️ 国民健康保険料が高くなりやすい
起業・法人設立
自ら事業を立ち上げる
月0〜100万円超
成功すれば大きいが失敗リスクも
✅ 経験・人脈を最大活用できる
✅ 働く動機・やりがいが高い
⚠️ 初期投資・リスクあり
⚠️ 老後資金を事業に投入するのは危険
⚠️ 法人の役員になると厚生年金に加入し、在職老齢年金の対象になる

手取り額の実際(社会保険・税金を考慮)

65歳・年金月15万円(厚生年金)を受け取りながら働く場合の手取り額の概算を比較します(標準報酬、年金課税などの前提は簡略化しています)。

働き方 給与・売上(月) 社会保険料(月) 所得税・住民税(概算月) 年金停止額(月) 実質手取り合計(月)
継続雇用(給与25万円) 25万円 約3.7万円(健保+厚年) 約2.2万円 0円(65万円以下) 約34.1万円
継続雇用(給与40万円) 40万円 約5.8万円 約4.0万円 0円(65万円以下) 約45.2万円
フリーランス(月収20万円) 20万円 約2.5万円(国保) 約1.0万円 0円(厚年未加入) 約31.5万円
パート(月収10万円・社保未加入) 10万円 別途(国保・介護保険料が年金から天引きされる場合あり) 約0.3万円 0円 約24.7万円(国保等を除く)

※年金月15万円(年180万円)を受給する前提の概算で、公的年金等控除、給与所得控除、基礎控除、社会保険料控除、住民税10%を考慮した目安です。実際の額は、標準報酬、扶養、お住まいの自治体などで変わります。

💡 フリーランスは在職老齢年金の対象外

個人事業主(フリーランス)として働く場合、厚生年金に加入しないため在職老齢年金の減額対象になりません。ただし、収入が増えると国民健康保険料・所得税・住民税も増えるため、増えた分が全額手取りになるわけではありません。

📊 年金の受取開始時期による受取額を比べてみよう

繰上げ・繰下げなど、年金の受取開始時期による受取額の違いを比べられます(在職老齢年金による支給停止や、働き方ごとの税・社会保険料は計算できません)。

年金受取時期シミュレーターを使う →

社会保険加入の損得勘定

65歳以降の会社員は健康保険・厚生年金に引き続き加入します。「70歳になっても厚生年金に加入できるか」「加入すると将来の年金が増えるか」を正確に理解しましょう。

厚生年金の上限年齢

  • 厚生年金の加入上限は70歳。70歳以降は厚生年金保険料を支払わなくなります
  • ただし、65歳以降に厚生年金に加入し続けると、在職老齢年金の対象として年金が一部停止されるリスクがある(収入次第)
  • 65歳以降も厚生年金に加入し続けると、在職定時改定(毎年1回、基準日は9月1日で、10月分から年金額が改定)や、退職時・70歳到達時の再計算で、年金額が増えます

健康保険の選択

  • 会社員なら健康保険(協会けんぽ等)に加入。保険料は会社と折半
  • 退職後・フリーランスなら国民健康保険へ移行。75歳以降は後期高齢者医療制度に自動移行
  • 国民健康保険料は前年所得に応じて計算されるため、退職後最初の1〜2年は高くなりやすい。65歳以上の介護保険料は、年金から天引きされるのが一般的

現実的な働き方プランニング

65歳以降の働き方は「いくら稼ぐか」だけでなく「何年働けるか」「どんな働き方が持続可能か」という観点も重要です。

段階的な就業縮小の例

  1. 65〜67歳:フルタイム or 週4日→継続雇用・再就職で収入を最大化。年金は67〜68歳まで繰下げ
  2. 68〜70歳:週3日・副業・フリーランス→プレッシャーを減らしながら収入継続。年金は70歳まで繰下げ
  3. 71〜75歳:週1〜2日・趣味的就業→月5〜10万円程度の小収入でも資産取り崩し抑制に有効
  4. 76歳以降:完全引退→70歳以降の増額された年金+資産で生活
⚠️ 老後の起業は慎重に

「老後に趣味で小さなお店を持ちたい」という夢はよくありますが、飲食・小売などの開業には失敗のリスクがあり、老後資金を失うおそれがあります。起業するなら「初期投資ゼロ〜最小限」のビジネスに限定し、事業に投入する額は、失っても生活に影響しない範囲にとどめることを検討してください。

📌 まとめ:老後の働き方の3原則

①働ける期間を最大化する:少額でも長く働くことで老後資産の減少ペースを抑えられる。②在職老齢年金の基準(2026年度は月65万円)を意識する:収入が増えると年金が停止されることがあるため、収入設計に注意。③年金繰下げと組み合わせる:働きながら年金を70〜72歳まで繰下げることで終身の収入を増やす方法もある(繰下げは最大75歳まで)。

📌 2026年11月7日の更新・訂正

①在職老齢年金の基準額を、2026年度の65万円に直しました(以前は「月50万円(2026年度)」で、2025年度の51万円とも合っていませんでした)。表、具体例、まとめも直しました。具体例は、給与55万円+年金15万円=70万円で停止2.5万円、給与50万円以下は停止なし、としました。②繰下げの例の「基礎年金のみ月約+1.2万円」「合計1,044万円」を、70歳繰下げで+42%(満額なら月約2.97万円)に直し、収入と増額分の合算をやめました。停止された厚生年金は繰下げの増額の対象外であることを追記しました。③手取り表の税額を再計算し(給与25万円で月約1.5万円→約2.2万円、40万円で約3.0万円→約4.0万円)、年金の停止額を0円としました(40万円の手取りは約43.7万円→約45.2万円)。社会保険の「0円」は、国保・介護保険料が年金から天引きされる場合があることを追記しました。④パートの厚生年金の加入要件(賃金要件の撤廃)、法人の役員の厚生年金加入、在職定時改定の時期、繰下げの上限(75歳)を追記しました。基礎年金の満額は約84.7万円に直しました。⑤案内先のシミュレーターを、年金の受取時期を比べられるものに変更し、免責事項を追加しました。

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⚠️ 免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の年金額や税額、働き方の選択を保証・推奨するものではありません。金額は概算で、実際の額は個別の状況により異なります。制度の内容は2026年11月時点のもので、変更される場合があります。最新の内容は、日本年金機構や厚生労働省の案内でご確認ください。