株式比率『100-年齢』ルールのポートフォリオは機能するのか2026:1985〜2024年の40年間バックテストで検証
「100-年齢」ルールとは何か:誕生の背景と基本的な考え方
「100-年齢」ルールは、ポートフォリオにおける株式と債券の配分比率を年齢に応じて機械的に決定する資産配分の指針です。具体的には、100から自分の年齢を引いた数字を株式の比率(%)とし、残りを債券に配分するというシンプルなルールです。
例えば:
- 25歳の場合:100 − 25 = 75 → 株式75%、債券25%
- 45歳の場合:100 − 45 = 55 → 株式55%、債券45%
- 65歳の場合:100 − 65 = 35 → 株式35%、債券65%
この考え方の背景には、年齢が上がるほど暴落からの回復に必要な時間的余裕が減るという前提があります。若い時期であれば、株価が大きく下落しても回復を待つ時間があり、収入も長期にわたって得られるため、株式比率を高めにしてリターンを追求できます。一方、退職が近づくにつれて、暴落後に資産が半減したまま取り崩しを始めると生活に支障が出るため、債券比率を高めて資産の変動を抑える必要があります。
ルールの学術的起源と普及
この「100-年齢」ルールの考案者や正確な起源は特定されていません。古くからの経験則として知られ、「115〜140-年齢」のように、より株式比率の高い式も紹介されています(出典:Retire Before Dad、Morningstar)。なお、William Bengen氏は「4%ルール」(退職後の安全な取り崩し率)の提唱者として知られています。
ただし、このルールはあくまで目安であり、個人のリスク許容度・収入の安定性・他の資産状況によって調整が必要です。近年では平均寿命の延びや低金利環境を踏まえ、「120-年齢」や「110-年齢」といったより積極的なバリエーションも提唱されています。
1985〜2024年の40年間バックテスト設計:検証の前提条件
今回の検証では、1985年1月(25歳で投資開始)から2024年12月(40年後の65歳で投資終了)までの40年間を対象期間とします。この期間を選んだ理由は、以下の5つの主要な暴落局面を含むためです。
| 暴落局面 | 期間 | S&P500の下落率 | 出典 |
|---|---|---|---|
| ブラックマンデー | 1987年10月19日(1日) | -20.4% | Federal Reserve History |
| ITバブル崩壊 | 2000〜2002年(3年間) | 累積-49% | SoFi、String Theory Lab |
| リーマンショック | 2007年10月〜2009年3月 | -56.8% | Wikipedia、Maximum Drawdown分析 |
| コロナショック | 2020年2月19日〜3月23日 | -34% | CNBC、Statista |
| 株式・債券同時安 | 2022年通年 | 60/40で約-18% | Damodaran(NYU Stern)の年次データ |
検証の前提条件
- 初期年齢・投資期間:25歳で投資開始、65歳で投資終了(40年間)
- 積立額:毎月3万円(年間36万円)を一定額で積立
- 株式:S&P500トータルリターン(配当再投資込み)を使用。1985〜2024年の年率リターンは約11.7%(Damodaran(NYU Stern)の年次データ)
- 債券:米10年国債(Damodaran(NYU Stern)の年次データ)を使用。1985〜2024年の年率リターンは約5.8%
- リバランス:毎年1月1日に「100-その年の年齢」の比率にリバランス(積立は毎月末に、その時点の目標比率で振り分け。年次リターンを月次に換算して計算)
- 手数料・税金:簡略化のため考慮しない(実際のNISA口座では売却益・配当が非課税)
比較する3つのパターン
今回の検証では、以下の3つの資産配分パターンを比較します。
| パターン | 株式比率 | 債券比率 | リバランス |
|---|---|---|---|
| ①「100-年齢」ルール | 100 − 年齢(%) | 残り | 毎年1月1日に実施 |
| ②株式100% | 100% | 0% | なし |
| ③60/40固定 | 60% | 40% | 毎年1月1日に実施 |
【実証結果】年齢別ポートフォリオのリターンとリスク推移
まず、「100-年齢」ルールで40年間積立投資を続けた場合の最終資産額と平均年率リターンを計算しました。比較のため、株式100%・60/40固定の結果も併記します。
40年間積立投資の最終資産額(概算)
| パターン | 積立元本 | 最終資産額(概算) | 運用益 | 年率リターン(資産全体) |
|---|---|---|---|---|
| ①「100-年齢」ルール | 1,440万円 | 約9,130万円 | 約7,690万円 | 約9.2% |
| ②株式100% | 1,440万円 | 約2億800万円 | 約1億9,360万円 | 約11.7% |
| ③60/40固定 | 1,440万円 | 約1億1,750万円 | 約1億310万円 | 約9.8% |
この結果から分かるように、最終資産額では株式100%が最も大きく、「100-年齢」ルールはその約44%、60/40固定は約56%にとどまります。
株式100%との差額は約1億1,700万円。これは、資産が大きくなる積立の後半ほど株式比率が低くなること、およびこの期間の米国株が大きく上昇したことが原因です。また、「100-年齢」ルールは60/40固定よりも最終資産額が約2,600万円少なくなりました。これらの結果は、米国株が好調だった今回の期間に大きく左右されます。長期的なリターン最大化だけを目指すなら、株式100%が有利という結果になります。
しかし、重要なのは「下落時の損失」
最終資産額だけを見れば株式100%が最も優れていますが、投資において重要なのは暴落時にどれだけ損失を抑えられるかです。特に退職が近づくにつれて、大きなドローダウン(資産の目減り)が発生すると、回復を待つ時間的余裕がなくなります。
次のセクションで、各暴落局面における損失の違いを詳しく見ていきます。
バブル崩壊・リーマンショック・コロナショック時の各年齢の損失比較
1985〜2024年の40年間には、5つの主要な暴落局面がありました。それぞれのタイミングで「100-年齢」ルールに従った投資家の年齢と株式比率、指数の下落率から見た損失の目安、および年次データで計算した暦年リターンを示します。
各暴落局面での年齢・株式比率・損失率
| 暴落局面 | 年齢 | 株式比率(100-年齢) | 株式部分の下落の目安(債券を除く) | 株式100%(指数の下落率) | 「100-年齢」の暦年リターン(債券込み) |
|---|---|---|---|---|---|
| ブラックマンデー(1987年) | 27歳 | 73% | 約-14.9% | -20.4% | 1987年:約+2.9% |
| ITバブル崩壊(2000〜2002年) | 40〜42歳 | 60〜58% | 約-29.4% | -49% | 2000〜02年の累計:約-9.7% |
| リーマンショック(2007〜2009年) | 47〜49歳 | 53〜51% | 約-30.1% | -56.8% | 2008年:約-9.4% |
| コロナショック(2020年) | 60歳 | 40% | 約-13.6% | -34% | 2020年:約+14.0% |
| 株式・債券同時安(2022年) | 62歳 | 38% | 約-6.9%(債券の下落は含まない) | 約-18%(株式のみ) | 2022年:約-17.9% |
「株式部分の下落の目安」は、株式比率に指数の高値から安値までの下落率を掛けた単純な目安で、債券の損益は含みません。「暦年リターン」は年次データから計算した、その年1年間のポートフォリオ全体のリターンで、測る期間が異なるため単純には比較できません。
この表から、以下のことが分かります。
- リーマンショック時(47〜49歳):株式100%なら指数の高値から安値で-56.8%の下落だったところ、「100-年齢」ルールでは株式比率が53〜51%だったため、株式部分の下落は約-30.1%(目安)にとどまった。債券が上昇した2008年の暦年リターンは約-9.4%(株式は約-37%)だった。
- ITバブル崩壊時(40〜42歳):株式100%なら累積-49%の下落だったところ、「100-年齢」ルールでは株式部分が約-29.4%(目安)。3年間の累計リターンは約-9.7%(株式は約-37%)だった。
- コロナショック時(60歳):株式100%なら-34%の下落だったところ、株式比率40%の「100-年齢」ルールでは株式部分が約-13.6%(目安)。2020年は暦年では株式・債券ともプラスで終わった。
- 2022年(62歳):株式も債券も約-18%と同時に下落し、株式比率38%の「100-年齢」ルールでも暦年リターンは約-17.9%。債券を増やしても下落をほとんど抑えられなかった。
退職直前の暴落リスクは、債券が下がらない局面では軽減される
60歳(退職5年前)でコロナショックが発生した場合を例にすると、株式100%なら-34%の下落(1,000万円の資産が660万円に)だったところ、株式比率40%の「100-年齢」ルールでは、株式部分の下落は約-13.6%(目安。1,000万円が864万円相当)にとどまる計算です。債券が値上がりする局面では、このような効果が期待できます。
退職直前に資産が3分の2に減るのと、約86%にとどまるのとでは、その後の取り崩し計画に大きな影響が出ます。「下落時の損失を年齢に応じて抑える」という点が、「100-年齢」ルールの狙いです。ただし、2022年のように債券も同時に下落する局面では、この効果は限定的でした。
「100-年齢」vs「120-年齢」vs「株式100%」:3パターンの成績比較
近年では、平均寿命の延びや低金利環境を踏まえ、より積極的な「120-年齢」ルール(25歳なら株式95%、65歳なら株式55%)も提唱されています。ここでは、「100-年齢」「120-年齢」「株式100%」の3パターンを比較します。
3パターンの最終資産額・最大ドローダウン比較
| パターン | 最終資産額(概算) | 最大ドローダウン(年末基準) | 最大ドローダウン発生時 |
|---|---|---|---|
| ①「100-年齢」ルール | 約9,130万円 | 約-17.9% | 2022年(62歳) |
| ②「120-年齢」ルール | 約1億2,750万円 | 約-23.9% | ITバブル崩壊(2002年・42歳) |
| ③株式100% | 約2億800万円 | 約-37.4% | ITバブル崩壊(2000〜2002年) |
「120-年齢」ルールは、「100-年齢」ルールと株式100%の中間的な位置づけです。最終資産額は約1億2,750万円と「100-年齢」より約3,600万円多い一方、最大ドローダウン(年末基準)は約-23.9%と「100-年齢」の約-17.9%より6.0ポイント大きくなります。なお、年次データの年末値で測っているため、期間中の最大下落はこれより大きくなります。
どのルールを選ぶべきか
選択の基準は、あなたのリスク許容度と退職後の取り崩し計画によります。
- 「100-年齢」ルール:退職直前の暴落リスクを最も抑えたい人、取り崩し開始時の資産額の安定性を重視する人に向いています。
- 「120-年齢」ルール:長寿化に備えてリターンを高めたいが、株式100%ほどのリスクは取りたくない人に向いています。
- 株式100%:退職までの期間が十分にあり、暴落時も取り崩しを開始せず回復を待てる人、あるいは他に安定収入がある人に向いています。
長寿化・低金利時代における「100-年齢」ルールの限界
「100-年齢」ルールは古くからある経験則ですが、前提となる条件はいくつか変化しています。
①平均寿命の延び
日本の平均寿命は1996年には男女平均で約80歳でしたが、直近(令和7年簡易生命表)では約84歳まで延びています。65歳で退職しても、その後20年以上生きる前提で資産を運用・取り崩す必要があります。
「100-年齢」ルールでは65歳時点で株式比率35%・債券65%となりますが、退職後20年間を債券中心のポートフォリオで過ごすと、インフレに資産が追いつかないリスクがあります。特に2021年以降、米国ではインフレ率が一時大きく上昇しており、債券だけでは実質的な購買力が目減りする可能性があります。
②低金利環境の長期化
1996年当時、米国長期国債の利回りは6〜7%程度ありましたが、2010年代以降は長らく2〜3%台で推移し、2020年には一時1%を下回りました。2022年以降は利上げで利回りが上昇し、直近は4〜5%前後で推移しています。今後の水準は不確実です。
債券比率を高めることには値動きを抑える効果がある一方、リターンの押し下げ効果も大きくなります。実際、今回の検証では「100-年齢」ルールの最終資産額は株式100%の約44%にとどまりました。
③2022年の株式・債券同時安という新しいリスク
従来、株式と債券は逆相関の関係にあり、株式が下落すると債券が上昇することで損失を緩和する効果がありました。しかし、2022年には株式と債券が同時に下落し、60/40ポートフォリオは年間で約-18%の損失を記録しました(Damodaranの年次データ)。株式(約-18.0%)も米10年国債(約-17.8%)もほぼ同じ幅で下落しました。
この現象は、中央銀行の利上げが債券価格を押し下げると同時に、株式市場にも下落圧力をかけたことが原因です。今後も金融政策の転換期には同様のリスクがあり、「債券を持てば安全」という前提が必ずしも成立しないことが明らかになりました。
年齢別の株式比率の考え方:「100-年齢」を調整する場合の例
今回の検証結果を踏まえ、「100-年齢」を調整する場合の考え方の例を示します。特定の配分を推奨するものではありません。
年齢別の株式比率の考え方の例(編集部の整理)
| 年齢 | 従来(100-年齢) | 調整する場合の例 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 20〜30代 | 70〜80% | 80〜100% | 回復期間が十分にあり、リターン最大化を優先する考え方がある |
| 40代 | 55〜65% | 65〜75% | 長寿化を踏まえ、従来より積極的な配分を検討する余地がある |
| 50代前半 | 45〜50% | 55〜65% | 退職まで10〜15年あれば回復を待てる可能性がある |
| 50代後半〜60代前半 | 35〜45% | 40〜50% | 退職直前はリスク抑制が重要だが、退職後20年を見据え債券偏重は避ける |
| 60代後半〜70代 | 25〜35% | 30〜40% | 取り崩し中でもインフレ対策として株式を一定比率保持 |
この例は、「120-年齢」ルールに近い水準です。ただし、以下の点に注意してください。
- 個人差が大きい:退職後の年金額・他の資産・健康状態・家族構成によって、最適な株式比率は大きく異なります。上記はあくまで目安です。
- 債券以外の分散先も検討:2022年の株式・債券同時安を踏まえ、金・不動産・現金といった他の資産クラスへの分散も検討すべきです。
- 定期的な見直しが必要:5年に1度は自分のポートフォリオを見直し、リスク許容度・市場環境の変化に応じて調整してください。
モデルケース(仮想シミュレーション)
【ケース①】Aさん(30歳・会社員・年収500万円)
- 退職まで35年あり、リスク許容度が高い
- 調整例:株式90%・債券10%(従来の「100-年齢」では株式70%)
- 将来の金額の試算値は示しません(運用成果によって大きく変わるため)
【ケース②】Bさん(55歳・会社員・退職10年前)
- 退職まで10年あるが、暴落リスクは抑えたい
- 調整例:株式55%・債券45%(従来の「100-年齢」では株式45%)
- 将来の金額の試算値は示しません(運用成果によって大きく変わるため)
【ケース③】Cさん(65歳・退職済み・取り崩し開始)
- 退職後20年の生活資金を運用しながら取り崩す
- 調整例:株式35%・債券50%・現金15%(従来の「100-年齢」では株式35%・債券65%)
- 取り崩し額やインフレ率によって、資産が続く年数は大きく変わります
まとめ:あなたの年齢で取るべきポートフォリオ戦略
今回の検証で明らかになったのは、「100-年齢」ルールは最終資産額では株式100%や60/40固定にも劣る一方、値動き(最大ドローダウン)は小さく抑えられたという点です。ただし、2022年のように株式と債券が同時に下がる局面では、下落を抑えきれませんでした。
検証結果のまとめ
- 最終資産額:株式100%(約2億800万円)> 120-年齢ルール(約1億2,750万円)> 60/40固定(約1億1,750万円)> 100-年齢ルール(約9,130万円)
- 最大ドローダウン:株式100%(約-37.4%)> 120-年齢ルール(約-23.9%)> 100-年齢ルール(約-17.9%)(年末基準)
- 退職直前(60歳)のコロナショック時:株式100%(指数の下落率-34%)> 100-年齢ルールの株式部分(目安 約-13.6%)
年齢別の考え方の例
- 20〜30代:株式80〜100%でリターンを重視する考え方。暴落からの回復を待てる時間が長い時期。
- 40代:株式65〜75%で、リターンとリスクのバランスを取る。長寿化を踏まえ、従来より積極的な配分を検討する余地がある。
- 50代前半:株式55〜65%で、退職までの回復期間を確保しつつリスクを抑える。
- 50代後半〜60代前半:株式40〜50%で、退職直前の暴落リスクを抑えつつ、退職後20年のインフレ対策も視野に入れる。
- 60代後半〜70代:株式30〜40%で、取り崩し中でも資産の実質価値を維持する。
最後に:ルールは目安、定期的な見直しが重要
「100-年齢」ルールはあくまで目安であり、あなたの状況に応じた調整が必要です。以下のタイミングで定期的に見直しましょう。
- 5年に1度の定期見直し
- 大きなライフイベント(結婚・出産・転職・退職)のタイミング
- 市場環境の大きな変化(金利の急上昇・暴落など)のタイミング
今回の検証が、あなたの資産配分戦略を見直すきっかけになれば幸いです。
2026年10月27日の訂正:バックテストをDamodaran(NYU Stern)の年次データ(S&P500配当込み、米10年国債)で、記事の前提どおり(1985〜2024年・月3万円積立・毎年リバランス)に再計算し、最終資産額・年率・最大ドローダウン・グラフを差し替えました(「100-年齢」は9,130万円、60/40固定を下回る結果です)。暴落時の損失の表は、債券込みの暦年リターンを併記する形に改め、2022年に債券も下落して効果が限定的だった点を明記しました。ルールの起源、平均寿命、根拠のない「2026年版推奨」の配分と試算額を修正・削除しています。
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- 投資の大原則インデックス運用を軸に、投資の基本的な考え方を示す。
- ファイナンス理論全史ポートフォリオ理論など金融理論の発展を、歴史的にたどる。
- 予想どおりに不合理人の意思決定にみられる非合理な傾向を、実験から紹介する。
免責事項
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