「利回り8%」は表面利回り(グロス)であり、管理費・空室率・修繕費・固定資産税を差し引いた実質利回りは3〜5%になることが多いです。株式インデックス投資と比較したとき、流動性の低さや管理コストを考慮すると、「本当にお得か」は慎重に検討する必要があります。
なぜ「利回り8%」は誤解を生むのか
「利回り8%の物件があります!」——不動産投資の広告でよく見かける数字です。株式の長期期待リターンが年5〜7%と言われる中、「利回り8%」は非常に魅力的に映ります。
しかし、この数字がどう計算されているかを知ると、印象が変わります。不動産投資の「利回り」には2種類あり、広告に使われるのはほぼ例外なく表面利回り(グロス利回り)です。
表面利回り(グロス)= 年間家賃収入 ÷ 物件購入価格 × 100
実質利回り(ネット)=(年間家賃収入 − 諸経費)÷(物件価格 + 購入諸費用)× 100
例えば、購入価格1,000万円・年間家賃80万円なら表面利回りは8%です。しかし「年間家賃80万円が丸ごと手元に残る」わけではありません。ここから管理費・修繕費・固定資産税・空室期間のロスなどが引かれて初めて実態が見えてきます。
表面利回りから実質利回りへ——何が引かれるのか
主なコスト項目
- 管理費・管理委託費:家賃の5〜10%(入居者対応・集金・清掃など)
- 修繕積立・修繕費:年間数万〜十数万円(築年数で増加)
- 固定資産税・都市計画税:年間数万〜十数万円(物件規模・地域次第)
- 空室損失:立地・築年数によっては年間賃料の10〜30%
- ローン利息:ローンを使う場合、金利分は収益を圧迫
- 購入時諸費用:仲介手数料・登記費用・不動産取得税など(物件価格の5〜10%)
これらを差し引いた実質利回りは、同じ物件でも3〜5%になることが多いというのが実態です。「利回り8%」と聞いて飛びついた物件の手取りが半分以下になることも珍しくありません。
レバレッジ・流動性・管理コストという見えにくいリスク
レバレッジは諸刃の剣
ローンを使うと少ない自己資金で大きな物件を持てます(レバレッジ効果)。しかし、金利上昇・空室継続・物件価値の下落が重なると、損失も同じ倍率で拡大します。変動金利ローンで購入した場合、金利が1%上昇するだけで年間のキャッシュフローが大幅に悪化するケースもあります。
流動性の低さというコスト
株式はスマートフォン一つで数秒以内に売却できますが、不動産は売却まで数ヶ月かかることも珍しくありません。急に現金が必要になっても、すぐに換金できない——この流動性リスクは表面的な利回りには現れませんが、確かなコストです。生活防衛資金が不十分な状態で不動産を持つと、緊急時に非常に困ります。
管理の手間も「コスト」
入居者対応・修繕手配・確定申告・リフォーム業者との交渉……不動産投資は「不労所得」と表現されることがありますが、実際には相当な時間と労力がかかります。管理会社に委託すれば手間は減りますが、その分コストが増え、実質利回りはさらに下がります。
ケース別・実質利回りのシミュレーション
購入価格1,000万円・表面利回り8%(年間家賃80万円)・ローンなしの物件を前提に、コスト条件別の実質収益を試算します。
| コスト条件 | 年間実質収入(目安) | 実質利回り | 10年累計手取り |
|---|---|---|---|
| コスト最小(管理費5%・空室5%・修繕費少) | 約68万円 | 6.8% | 約680万円 |
| 標準(管理費10%・空室10%・修繕費5万/年) | 約57万円 | 5.7% | 約570万円 |
| コスト大(管理費10%・空室20%・修繕費10万/年) | 約44万円 | 4.4% | 約440万円 |
| 悲観的(空室30%・大規模修繕含む) | 約30万円 | 3.0% | 約300万円 |
「利回り8%」の物件が、コスト条件次第で実質3〜6%の幅を持つことがわかります。特に築年数が経った物件は修繕費の増大と空室リスクの上昇が重なり、楽観的な想定は危険です。
株式インデックス投資との正直な比較
不動産投資の実質利回りが3〜5%だとすると、他の投資手段と比べてどうでしょうか。
| 投資手段 | 期待利回り(実質・目安) | 流動性 | 管理の手間 | 最低投資額 |
|---|---|---|---|---|
| 不動産(表面8%の物件) | 実質3〜6% | 低 | 大 | 数百万円〜 |
| 全世界株式インデックス | 実質5〜7%(長期) | 高 | ほぼなし | 100円〜 |
| 国内REIT(不動産投信) | 実質3〜4% | 中 | なし | 数万円〜 |
| 定期預金 | 0.1〜0.3%前後 | 高 | なし | 数万円〜 |
単純な数字だけを見ると、「全世界株式インデックスの方が実質利回りが高く、流動性も高く、管理不要」という結論が出やすい。もちろん、株式は価格変動があるため、「必ず不動産より良い」ではなく「比較した上で選ぶ」ことが重要です。