相続税の節税策として最も有効なのが「生前贈与」です。しかし2024年1月から税制が大きく改正され、従来の「毎年110万円を7年前まで贈与すれば相続財産から除外できる」という常識が変わりました。本記事では改正後の正しいルールを踏まえ、暦年贈与と相続時精算課税の使い分け方を解説します。

生前贈与で相続税が減る仕組み

相続税は、亡くなった時点の財産総額から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を引いた金額に課税されます。生前に財産を贈与しておけば、相続時の財産総額を減らすことができます。ただし「贈与税」がかかるため、どちらが得かを比較する必要があります。

相続税と贈与税の税率差を活用する

相続税の最高税率は55%(6億円超)ですが、多くの中間層では10〜20%程度。一方、贈与税の基礎控除(110万円)を超えた部分の税率は10〜55%です。財産額・受贈者の人数・年数によっては、生前贈与の方が税負担を大幅に下げられます。

暦年贈与:2024年改正後の「7年加算ルール」

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与額が基礎控除110万円以下なら贈与税が非課税になる制度です。

2024年改正前後の比較

改正前(〜2023年)改正後(2024年〜)
相続財産への加算期間死亡前3年以内死亡前7年以内(段階移行)
加算対象相続人への贈与のみ相続人への贈与のみ(同じ)
4〜7年目の緩和措置なし4〜7年の贈与合計から100万円を控除
相続人以外への贈与加算なし加算なし(同じ)
7年加算ルールの経過措置

2024年1月1日以降の贈与から7年加算ルールが適用されますが、完全移行は2031年1月1日以降の相続から。2024〜2030年の相続は経過措置として加算期間が段階的に延長されます。すでに贈与を行っている方は税理士に確認を。

暦年贈与の有効な使い方

7年加算ルールへの対応として、次の戦略が有効です。

  • 相続人以外(孫・子の配偶者)への贈与:相続人でない孫や子の配偶者への贈与は7年加算の対象外です。早期から孫への贈与を行うことが有効な節税策になります(ただし孫が相続人になる場合は除く)。
  • 早期開始:7年前を超えれば加算されないため、50〜60代から計画的に始めることが重要です。死亡直前の贈与は節税効果が薄くなります。
  • 複数人への分散贈与:子・孫・子の配偶者など複数人に贈与することで、総額を増やしながら各人の贈与税を抑えることができます。

相続時精算課税:2024年改正で使いやすくなった

相続時精算課税とは、60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税が非課税になる制度です。ただし贈与した財産は相続時に相続財産に加算して相続税を計算します。

2024年改正の重要ポイント:年110万円の基礎控除が新設

2024年改正で何が変わったか

改正前:相続時精算課税を選択すると、110万円の基礎控除が使えなくなるデメリットがありました。
改正後:相続時精算課税でも年110万円の基礎控除が使えるようになりました。この110万円部分は相続財産に加算されません。つまり毎年110万円以内は完全非課税で贈与でき、かつ相続財産からも除外されます。

制度暦年贈与相続時精算課税(改正後)
基礎控除年110万円年110万円(新設)
非課税枠年110万円のみ年110万円+累計2,500万円
相続財産への加算7年以内は加算110万円超の累計額を加算(110万円以内は加算なし)
適用要件制限なし贈与者60歳以上、受贈者18歳以上の直系卑属
一度選択すると毎年選択可能取り消し不可(暦年課税に戻れない)

どちらを選ぶべきか:3つのケース別判断

ケース①:相続財産が1億円以下で相続人が多い

基礎控除(3,000万円+600万円×人数)の範囲内に収まる可能性が高く、相続税の負担が軽い。暦年贈与で孫・子の配偶者に計画的に贈与しつつ、相続時精算課税の選択は慎重に。

ケース②:相続財産が1〜3億円で子どもへの大口贈与をしたい

住宅取得資金・教育資金などで子どもへ大口贈与したい場合は、相続時精算課税の2,500万円枠が有効。毎年110万円の基礎控除も活用できるため、長期間にわたる節税効果が高い。

ケース③:相続財産が3億円超の富裕層

相続税の実効税率が高いほど、早期の生前贈与効果が大きい。孫への暦年贈与(加算対象外)と相続時精算課税の組み合わせ、さらに生命保険・不動産評価の活用も検討する。税理士との連携が必須。

贈与の証拠を残す:税務署に否認されないための実務

生前贈与が税務調査で「名義預金」として否認されると、節税効果がゼロになります。贈与として認められるには次の証拠が必要です。

  • 贈与契約書の作成:毎年の贈与ごとに契約書を作成し、日付・贈与者・受贈者・金額を明記します。公証役場での確定日付を取ると証拠力が高まります。
  • 振込で実施する:現金手渡しは証拠が残りにくい。贈与者から受贈者の口座へ銀行振込で行いましょう。
  • 受贈者が自分で管理する口座に入金:親が子名義の通帳・印鑑を管理している「名義預金」は贈与とみなされません。子が自分で管理する口座への入金が必要です。
  • 110万円を毎年ぴったりにしない:毎年同じ金額・同じ時期の贈与は「定期贈与」とみなされ、累計額に一括で贈与税が課される可能性があります。金額や時期を年ごとに変えましょう。
贈与税の申告が必要な場合

年間贈与額が110万円を超えた場合は、翌年2月1日〜3月15日に受贈者本人が贈与税申告をする必要があります。相続時精算課税を選択する場合は、最初の年に必ず届出書を提出してください。

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